186.繰り返し学んで脳に刻む「長期増強(LTP)」

私たちが「学習」という言葉を使う時、それは「お勉強」のことのみならず「経験」や「体験」等の意味が含まれています。私たちひとりひとりの指紋が異なるように、脳も一人ひとり異なり同じものはありません。様々な行動と反応が繰り返されるうちに、脳の複雑な構造ができあがります。「脳は自ら脳を育てる」と言われていますが、それは、脳の持ち主である私たち個人の経験によって自らを形作るということです。因みに神経科学の世界では、脳が自らを形成する能力を「可塑性(かそせい)」と呼んでいます。

ある情報が繰り返されたり、何度も学び直されたりするなどして脳は学習をして新しい情報を得ることになります。より「頻繁」に、より「最近」に行われるほど、情報は脳に深く刻まれます。この学習の鍵となるのは「長期増強(Long-term Potentiation)」という現象です。テスト等において多くの情報を記憶しなければならない時は、脳に繰り返し刻むよう私たちは何度も繰り返し記憶をします。

これまでの多くの研究から、10代で学んだことはおとなになってから学ぶことより記憶しやすく、しかもその記憶が長く持続することもわかっています。つまり、10代は、得意なことを見いだし伸びる才能に投資する時期であると同時に、学習や感情の面においては治療や支援の効果が高い時期であるといえます。

このように「学習」面においては特に脳の仕組みをしっかりと理解して、こどもたちと接することが指導の質を高めることにつながるのです。

<引用・参考文献>
『10代の脳』(F・ジェンセン、A・E・ナット著 文春文庫)

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