172.使われなくなった脳
当時は特に不便を感じていなかったものが、ある商品やサービスの登場により「あの頃は不便だった」と振り返ることがよくあります。つまりは「便利になった」ということなのですが、便利になったことで失われるものもあります。
その一つが「脳を使うこと」です。計算問題や会社の売上を計算する際に、筆算をすると時間がかかるため、暗算で素早く解答を出そうと努めていましたが、肝心なところで桁を間違えて取引先に不信感を抱かれた経験があります。いまとなってはパソコン・スマホ・計算機(電卓)が一瞬で解答を出してくれます。
立体図形の断面(切断図)の面積などを求める問題において、断面がイメージできない時、何度も何度もノートに書いてイメージしようと努め、それでもわからない時は豆腐を使い、手を切らぬよう包丁で必死に断面をカットしたことがありました。いまとなってはICT教材が映像を使って分かりやすく断面をきれいに、しかも一瞬で表現してくれます。
「いちいち調べてメモをする時間がもったいないから顧客の電話番号は覚えてしまえ!」と上司に言われ、曖昧な記憶をもとに間違い電話を何度もかけてしまい、さらに怒られたことがあります。いまとなってはスマホの電話帳機能や音声での指示により、一瞬で電話をかけてくれます。
このような「あるある」は「脳を使わなくなった」という一点で共通しています。
AIの進化と共にわたしたちはますます脳を使わなくなるでしょう。しかし、一方で、AI等と共存する私たち人間に求められる力は「思考力・創造力・課題解決力・主体的な取り組み」など人間にしかできない力です。これらは脳、特に前頭前野をフル活用することばかりです。
脳の成長が著しいこどもたちには、多少の不便を感じるとしても脳に負荷をかけて、あえて「脳を使う時間」を設けることが必要です。そうすることで「思考力・創造力・課題解決力・主体的な取り組み」が育まれるからです。
#教育コラム172