196.本をノートにする
わたしの中学校時代のかすかな記憶をたどると、国語の教科書にはたくさんの書き込みをしていました。国語教師の指導によりそのようにしていたのか、自分なりに工夫をしていたのか記憶が定かではありませんが、授業中に教師が教えてくれたことや準拠問題集に出題されていた内容なども書き込んでいました。教科書は文字で埋め尽くされていました。そして、定期テスト前はそれらを何度も何度も読み返していました。
わたしの経験はあくまで定期テスト対策という狭い世界での話ではありますが、「教養」という観点では、以前に当コラムでご紹介した『銀の匙』の授業のように言葉の無限の広がりを楽しみ総合学習的な好奇心の目線を養うことが理想的です。歴史・文化・社会・伝統など、速読では身につかない広がりがそこから得られます。(参照「一冊の文庫本で学力を高める」)
自分で調べたことや感じたこと、考えたことを自由に書き込み、それを発表し合うことで自分自身の考えを広げ、深めることができます。本そのものをノートにするという発想で学びを深めることができるのです。
いまでこそ「クリティカル・シンキング」という言葉がありますが、はるか以前に灘中学校・高等学校で実践されていた『銀の匙』の授業は「クリティカル・シンキング」「メディア・リテラシー」に通じる芯の通った授業でした。
『銀の匙』の授業を実践されていた橋本武先生の言葉をお借りしますと、『まずは「行間を読む」だけでなく「行間に書く」』ということです。さらに『自分の言葉で行間を埋めていけば、筆者や自分、周囲の人、そして時代とのキャッチボールを楽しむことができ、あなたのなかの新しい眼が開かれていく』とあります。
学生時代に限った話ではなく、わたしたち大人が教養を深める際にも大きなヒントとなる学び方です。
<引用・参照>
『奇跡の教室-伝説の灘校国語教師・橋本武の流儀』(伊藤氏貴著 小学館文庫)
#教育コラム196