183.一冊の文庫本で学力を高める
神奈川県にある日本女子大学附属中学校・高等学校では、文庫本一冊を一学期間かけて精読しており、すべての教科の中心に国語を据えて、中高の六年間を通して生徒に考える力、想像する力、表現する力を身につけさせることに並々ならぬ力を入れており、その実績は日本漢字能力検定試験では十二年連続で最優秀・優秀団体賞を受賞しています。
『アンネの日記』を題材にした授業では、わずか十四歳の少女が隠れ家で迫りくる死の恐怖と戦い、恋をする自由さえ許されない不条理な社会のあり方について、一文単位で生徒に考えさせる授業を展開しています。思考力や表現力が秀でていると思われる箇所に下線を引いて、良いと感じる理由を説明し、他の生徒にも意見を募る授業を行っています。生徒が何を感じ、どこまで考え、自分の言葉でまとめられたかどうかが評価基準だとのことです。
また、兵庫県の名門である灘中学校では、『銀の匙』(中勘助)をテキストとして、なんと三年かけて授業を行っていました。この取り組みを行った橋本武先生は、選りすぐりの原典を徹底的に読み込み、研究し、表現を磨くことで学びを何段も深いものにしていくという取り組みを通して『生徒の心に生涯残り、生きる糧となる授業をしたい』と語っていたといいます。
麻布中学・高校などにおいても同様に、一冊の文庫本をテキストとしててって的に読み込むという取り組みがされています。
<以上の参考・引用>
『ルポ 誰が国語力を殺すのか』(石井光太著 文藝春秋)
国語の教科書には、ある一冊の文章をまるまるは掲載をしていません。学習塾等で使用される国語の問題においても同様に、作品の一部から出題がされます。『100個の問いを作れ』に書きました通り、国語科を通して学ぶ醍醐味は本文の内容理解に止まらず、その背後にある時代的背景や登場人物の心理的な動きを読み取るという「深み」にあり、学習者にとって価値がある取り組みです。
日本女子大学附属中学校・高等学校や灘中学校の橋本先生の例のように、信念を持ってこどもたちの力をつける授業づくりに倣い、私たちも研鑽を積んでまいります。
#教育コラム183